決まり字

競技かるたを始めたばかりの方は、周りの人たちが素早く札を取っている姿を見て驚いていることでしょう。競技を目の当たりにして驚くのはもちろん、実際に自分で体験したことで、その速さがより一層際立って見えているのではないでしょうか?

では、なぜ競技かるたの選手たちは、あれほど速く札を取れるのでしょうか?そこにはいくつかのコツがあるのですが、その一つに「決まり字」というものがあります。この「決まり字」というものは、競技かるたを行う上でとても重要ものです。今回は、この「決まり字」について説明したいと思います。

「決まり字」を覚えることが始めの一歩

競技かるたが、読手によって読まれた歌(上の句)に対応する札(取札)を取り合う競技であることは既にご存じでしょう。この上の句を聞いて札を判断するという点に着目し、なるべく早く札を判断できるように百首全てを分析して得られたものが「決まり字」です。この決まり字とは、上の句の最初の数文字を聞いただけで百首(百枚の札)の中から対応する一首(一枚の取札)を特定できる、非常にありがたい仕組みなのです。

例えば「村雨の露もまだひぬ真木の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ」の歌が読まれた場合、初心者の方は「村雨の」辺りまで聞いてから対応する取札を探しているのではないでしょうか?しかし、決まり字を知っていれば、最初の一文字「む」を聞いただけで「村雨の~」であると判断して札を取ることができるのです。

小倉百人一首には、その名の通り百首の歌がありますが、最初の一文字が「む」で始まる歌が何首あるかご存じでしょうか?そうです、「む」で始まる歌は「村雨の~」の一首だけです。

このことを知っていれば、「む」と聞いた瞬間に「村雨の~」と判断できます。つまり、最初の一文字目の「む」が札を特定できる「決まり字」なのです。

このように最初の一文字を聞いただけで判断できる札は「一枚札」と呼ばれており、七枚(む・す・め・ふ・さ・ほ・せ)が存在します。

  • 村雨の露もまだひぬ真木の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ
  • 住の江の岸による波よるさへや 夢の通ひ路人めよくらむ
  • めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな
  • 吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ
  • さびしさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ
  • ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる
  • 瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ

この一枚札(むすめふさほせ)の七枚は、真っ先に覚えたい札ですから、しっかりと頭に入れておきましょう。

次に、もう一つの例として、「う」で始まる札を考えてみましょう。「う」で始まる歌には次の二首があります。

  • 憂かりける人を初瀬の山おろしよ はげしかれとは祈らぬものを
  • 恨みわびほさぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ

説明用にひらがなで書きます。

  • うかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
  • うらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ

この二首を見て分かる通り、最初の「う」だけでは特定できません。そこで、二文字目を確認する必要があり、そこで一首だけに特定できます。つまり、「うかりける~」の決まり字は「うか」、「うらみわび~」の決まり字は「うら」です。

このように、一首ごとに決まり字が異なり、「む・す・め・ふ・さ・ほ・せ」のように一文字のものもあれば、「あさぼらけあ」のように六文字のものまであります。もちろん、百首全てにその札を特定できる決まり字がありますので、全ての決まり字をしっかりと覚えましょう。

一般的にいわれている決まり字の覚え方として、「むすめふさほせ順」があります。「むすめふさほせうつしもゆいちひきはやよかみたこおわなあ」です。

これは、一枚札から始まり、二枚札・三枚札と枚数の少ない順に並んでいるため、頭の中を整理しやすい覚え方だと思います。上記をさらに細かくし、百首全てを網羅したものが下記です。

  • む、す、め、ふ、さ、ほ、せ
  • うか、うら、つき、つく、しの、しら、もも、もろ、ゆふ、ゆら
  • いに、いまこ、いまは
  • ちぎりお、ちぎりき、ちは
  • ひさ、ひとは、ひとも
  • きみがためは、きみがためを、きり
  • はなさ、はなの、はるす、はるの
  • やへ、やす、やまが、やまざ
  • よのなかは、よのなかよ、よも、よを
  • かく、かさ、かぜそ、かぜを
  • みかき、みかの、みせ、みち、みよ
  • たか、たき、たご、たち、たま、たれ
  • こひ、こころあ、こころに、こぬ、この、これ
  • あふこ(おおこ)、おほえ(おおえ)、おほけ(おおけ)、おく、をぐ、おと、おも
  • わがい、わがそ、わすら、わすれ、わたのはらこ、わたのはらや、わび
  • ながか、ながら、なげき、なげけ、なつ、なにし、なにはえ、なにはが
  • あひ、あきか、あきの、あけ、あさぢ、あさぼらけあ、あさぼらけう、あし、あまつ、あまの、あらざ、あらし、ありあ、ありま、あはぢ、あはれ

なかなか覚えづらいとは思いますが、「決まり字」は競技かるたを行う上で最も重要な基礎知識です。全てをすらすらといえるように、しっかりと覚えましょう。

なお、決まり字は札と一緒に覚える方が効率がよいので、前回(札を覚える時は、文字ではなく「イメージ」で認識すること)紹介した「札流し」で決まり字を声に出しながら、何度も繰り返し練習しましょう。